ビタージャムメモリ
…歩くんが、何か私のフォローをしてくれたのかもしれない。

もしくは私が思っていたほど、怒っていなかったのかもしれない。

あるいは単に、呆れて耐えられなかっただけかも。


なんでもいい、嬉しい。

涙が出そうになったので、個室に飛び込んでトイレットペーパーを顔に押しつけた。


先生の笑った顔。

それだけでこんなに舞い上がる。


先生が私を振り回すのか。

私が、振り回されすぎなのか。





発表会の準備は加速した。

運営マニュアルができてくると、いよいよだと気持ちも引き締まり、私は不慣れな分、せめて足を引っ張らないよう資料を読み込んだ。

定例会は5回目を迎え、何かアクシデントがない限り、これが最後になるはずだ。



「リハを前倒し?」

「はい、当日午前中に予定していたんですが、もう少し余裕を見たくて、前日の設営と並行して行うことにしたいんです」

「あ…そうか、そうですね」



「どうする?」と先生と柏さんが相談を始めた。

プレゼンターである先生と、アシストの柏さんは、リハには必須だ。



「あの、何かご都合が悪いですか」

「いや、実はその日、半日だけ北陸のほうで仕事があって」



柏さんが手元のファイルから資料を取り出して、確かめる。

隣に座っていた先生もそれを覗き込んだ。



「午後浅めで終わりますし、昼食は帰りの車内で済ませれば」

「だな、夕方には帰ってこられる」

「あの、あんまり無理なスケジュールにしていただくのも申し訳ありませんので」



いや、と先生がやんわり私を遮った。



「どんな修正が発生するかわからないので、僕らもリハは前日のほうがありがたい。会場に入れるのは、早くて17時頃と思いますが」

「設営は一晩中やっていますので、何時になっても大丈夫です、でしたらおふたりの分も、会場近くに宿泊をとっておきますね」

「助かります」


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