ビタージャムメモリ
『はいはい?』
「あ、早絵? あの、いきなりで申し訳ないんだけど、ほら、あのバーテンさんに連絡取りたいんだ、繋いでもらえるかな…」
『大ちゃんのこと? 今ちょうど一緒にいるよ、待ってね』
後ろに音楽が聞こえている。
"大ちゃん"に会いにクラブに行ってるんだ、ついてた。
すぐに男の人の声が聞こえてきた。
『大助(だいすけ)です、いつもどうも』
「あっ、あの、お世話になってます、突然すみません」
私は大助さんに、歩くんの行き先に心あたりがないか訊いた。
歩くんの交友関係がこれですべてとは思わないけれど、あれだけの頻度で働いていたなら、何か知っている可能性も高いと思ったからだ。
その勘は当たり、大助さんは「ああ」とこともなげに言った。
『さっきまでうちに来てましたよ、いきなり辞めたでしょ、そのせいで店長に呼び出しくらってたみたいで』
「ほんとですか! 今います?」
『いや、そういやしばらく見てないです。あーもしかして、ちょっとやばいかな』
「やばいって…?」
その時、ふと間近に気配を感じて、横に目を向けると先生だった。
身を屈めて、私の携帯に耳を澄ましている。
慌ててスピーカーに切り替えて、大助さんの話を聞いた。
『あいつね、店長の女に手を出してて、っていうか、出されてたってほうが正しいんですけど、それでもめてたんですよ』
「え…」
『制裁くらってる可能性もあるかも。うちの店長わりと荒っぽいし、歩も血の気多いですしね』
先生と顔を見合わせた。
携帯を持つ手に、思わず力がこもる。
「あの、今どこにいるか、わかりませんか」
『そんなに遠くへは行ってないと思うんですけど…』
私は先生の腕をつかんで、走りだしていた。