ビタージャムメモリ

「改めてこの商品の特徴をご説明いただけますか」

「図面を簡略化したものをお持ちしましたので、これを見ながらがよいでしょう」

「こちらは、記事に掲載させていただいてもよいですか?」

「もちろんです」



忙しくメモをとりながら、久しぶりの声に聞き入った。

やっぱり、素敵な声だ。


綺麗な滑舌と、抑制のきいた発声。

特に耳に残るわけでも際立って響くわけでもない、その普通さが、心地いい。



「後先になりましたが、眞下さんの経歴を伺っても?」



ライターさんのパスに、はっとした。

私もそれを知りたかった。

記憶が確かなら、先生は非常勤講師として、私の大学で短期間だけ、教えていた。

それが気づけば同じ会社で働いていたという、この巡り合わせは、いったいどんな経緯で発生したのか。



「入社当時は、法人営業でした、弊社の新人が、たいていまず配属される部門です」

「一年間とかですか」

「ええ、今はその風習もないようですが」



ですよね、と急に問いかけられる。

向かい合うふたりから少し距離をとっていた私は、慌ててメモから顔を上げ、先生にうなずき返した。



「はい、私が入社した時にはもう、その制度はありませんでした」

「失礼ですが、何年目ですか」

「3年目です」



年齢が伝わったことで、先生の中で私の記憶がよみがえってしまうのではとひやりとしたのだけど。

幸いなことに、その気配はまったくなかった。

お若いなあ、とライターさんが笑う。



「でももう、25ですよ」

「充分若いですよ、我々からしたら、ねえ」


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