ビタージャムメモリ
「いってえ…肩まで痺れた、最悪」
億劫そうに歩くんが身体を起こすのを、呆然と見守った。
「歩くん…」
「弓生、お前、人の大事な腕を枕にするってなあ」
「歩くん!」
抱きつくと、歩くんがわあっと声をあげた。
私はどうやら床に座ったまま寝てしまったせいで、足まで痺れていて、飛びついたはいいもののバランスを崩し、ベッドの枠にすねを打った。
「いたーい!」
「うるせー、ていうか重い!」
「歩くん、身体は?」
「痛えよ、あちこち、見りゃわかんだろ」
身体を離して、歩くんの顔を確かめる。
痣に加えて、目や頬骨の周辺が痛々しく腫れてきているけれど、真っ白だった顔色は元に戻り、瞳は反抗的にこちらをにらんでいた。
歩くんだ。
「よかったあ…」
「苦しいって」
「心配したんだよ、もう!」
ぎゅっと抱きしめると、その身体は温かい。
憎まれ口を叩く余裕もあるなら、もう大丈夫だ。
よかった!
「ところで弓生がなんでここにいんの?」
「歩くんが先生に電話した時、私、ちょうど先生と一緒にいたの、発表会のリハーサル中で…」
あれ…。
歩くんに抱きついたまま、状況を整理する。
窓の外、明るくない?
なだめるみたいに私に腕を回してくれていた歩くんが、背中をなでながら感心しているような声で言った。
「弓生、脈すげーよ」
「…今、何時?」
「時計、机の上」
おそるおそる首を伸ばして確認する。
どっと嫌な汗が吹き出すと同時に、わ、と歩くんが驚いた。