ビタージャムメモリ
吐きそう…。
発表会会場の控え室で、気を落ち着けようと座ったとたん、めまいに襲われた。
よく考えたら昨日は、リハが忙しくて夕食のお弁当を食べる暇がなく、そこから飲み食いをまったくせずにあれやこれやのドタバタだったのだ。
ぐったりしていると、ドアがノックされ、先生が入ってきた。
「あっ、今朝は…」
ありがとうございました、と言おうとしたところを、シッと指を立てて遮られる。
視線を追って見れば、すぐ後ろに柏さんたちが続いていた。
慌てて口をつぐみ、彼らを迎えるため席を立った。
「おはようございます、よろしくお願いします」
「いよいよですね、緊張してきた」
「受付は午後ですよ、まだリラックスしてらしてください」
柏さんたちのコートを受け取ってハンガーにかける。
彼らがめいめいパイプ椅子に落ち着いて、最終版のマニュアルを広げはじめると、先生がそっと私のところにやってきた。
「大丈夫だった?」
「はい、それが…」
上着や荷物の整理をしながら、小声で答える。
あの後、この時間帯であれば車のほうが確実だと判断した先生は、会場まで私を乗せてきてくれた。
病院に行くため、ついでに歩くんも部屋着のまま乗せられた。
私は震える手でメイクを直しながら、シャツもスーツもしわくちゃのこの状態をどう乗り切ろうと半泣きだった。
『で、で、電話かけていいですか、遅れますって言わないと』
『でも…本来ならホテルにいることになってるんだから、今電話できるんなら、遅刻する理由がないよ』
『あああ…』
先生の言うとおりだ。
出した携帯を再びしまい、なすすべもなく先生の運転に身を委ねた。
その後、頃合いを見計らって野田さんに電話するも繋がらず、部長にも繋がらず、いよいよ泣きながら会場に飛び込んだのが9時前。
髪を振り乱し、ぐちゃぐちゃの恰好で現れた私を迎えたのは、代理店営業さんの、きょとんとした顔だった。
「昨日のリハが順調だったので、広報部の集合が1時間後ろ倒しになったそうで…」
「それは…」
よかった、ね? と先生が私の心情を探りながら半疑問形で言う。
はい、よかったです…結果的には。