ビタージャムメモリ
09.暴露
「もうさあ、お前さあ、マジ何やってんの?」
「私だってびっくりしてるよ!」
「なんで俺がよりによって弓生だよ、巧兄の奴、どうかしちまったんじゃねえの」
「こっ、ちの、台詞…!」
悲しさのあまり、言い返しながらドンドンとテーブルを叩いた。
よりによってなんて。
よりによってなんて、こっちが言いたいよ!
私が17歳の男の子に手を出すなんて、本気で思いますか、先生!
「巧兄が一度思い込んだら、それ崩すのけっこう大変なんだからな、お前のフォローだって、俺がどれだけ言ってやったと」
「そもそも、そのフォローが誤解の元だったんじゃないの? いったい何言ったのよ」
「俺がいろいろ悪さしてただけで、弓生は何もしてないし、ちょっとボケッとしてるけどちゃんとした奴だから、安心しろって…なんだよ!」
「それ、言いすぎたんだよ絶対!」
「じゃあどう言やよかったんだよ、助けてやったのに、なんだその言いぐさ!」
おやつどきのカフェで、あーもー! と私は頭を抱えた。
せっかく先生の信頼を取り戻せたと思ったのに。
私は決して、歩くんとのおつきあいを認めていただきたかったわけではないです、先生…!
土曜日に私を呼び出すというますます誤解を深めそうなことをしておきながら、歩くんは心底心外そうに私を罵倒している。
顔の痣は紫や黄色に変色しているものの、腫れが引いた分、あのむごたらしさは消えていた。
そして初めて見る、黒縁の眼鏡をかけていた。
「目、悪いの?」
「紫外線よけ。乾燥してくると、日中はこれないときついんだ。なんか俺、昔から目が弱くてさ」
それは…子供の頃のことと、何か関係があるんだろうか。
黙った私を、訝しげに歩くんが見た。
「なんだよ」
「…眼鏡かけると、ますます先生に似てるね」
「そう? ちょっとは頭よさそーに見えっかな」
「別にいつもだって、バカっぽくないよ」
「あっそ、お前はバカっぽいよ、特に巧センセーの話してる時な」
「うるさいな!」
発表会の日の夕食は結局、「お前とふたりで食う意味がわかんねー」という歩くんのしごくもっともな一言によって流れた。
先生は歩くんがどんなに誘っても「気を使わなくていい」と言うだけで、来てくれなかったんだそうだ。
大誤解もいいところです、先生…。