性悪女子のツミとバツ

そして。
ついに。
薄氷は割れる日を迎えた。


今思えば。
俺には、もっと手を尽くすべきことがあったのかもしれない。

でも、あの時は。
ただ、黙っていることが、誰も傷付かない最善の方法だと思ったのだ。


もうすぐ、本格的な冬を迎えるかという頃。
業務時間中に、役員フロアで起きた修羅場の噂は、瞬く間に支社中に広がった。

安井萌が、取引先の御曹司を誘惑して、その婚約者が乗り込んできた。

安っぽい昼ドラさながらのシチュエーションでも、平凡なオフィスを混乱させるには十分だった。

興奮した状態で乗り込んできた、どこかの令嬢らしい女は、萌を見つけるなり「泥棒猫」呼ばわりして、彼女を平手で二発殴った。

萌の上司と警備員に連れられて、令嬢が秘書室を出て行くまで、萌は何も反論することなく、呆然と立ち尽くしていたらしい。

その後、その令嬢の親が経営する会社とも大口の取引があったことが判明して、営業部は謝罪に追われ、萌はそのまま謹慎処分になった。

そして。
その日から、彼女に連絡が付かなくなった。
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