性悪女子のツミとバツ
『私は、本当は松岡さんのようになりたかったのかも知れません。』
どうか、間に合ってくれ。
俺は震える手でハンドルを握りながら、今日まで彼女を一人にしたことを悔やんでいた。
『必死に否定していたのですが、きっと私は心の奥底では、あなたに憧れていたのです。』
どうして、俺は僅かな勇気さえ出せずにいたのだろう。
彼女を永遠に失うこと以上に、怖いものなど何もないことに気が付いた。
『ごめんなさい。今更謝っても仕方がないけれど、あなたの期待を裏切って、ひどく落胆させたことだけが、私の心残りです。』
アパートに着いて、彼女の部屋のインターホンを何度も鳴らすも、物音一つしなかった。
同時に携帯に電話を掛けてみれば、ドアの向こう側からかすかに着信音が漏れ聞こえた。
必死に、アパートの掲示板に貼られた管理会社の連絡先に電話して、事情を説明して鍵を持ってきてもらう。
ようやく開いた玄関から中に入ると、すぐに寝室のベッドで横たわっている萌を見つけた。
枕元に彼女の携帯と、睡眠薬が入っていた薬袋を見つけた俺は、すぐに彼女を抱き起こした。
「萌!おい、萌!!」
呼びかけても意識のない彼女を力一杯抱きしめる。
やがて、遠くから救急車のサイレンの音が聞こえてきた。