性悪女子のツミとバツ
「ご両親は?」
「昼過ぎに帰ったわ。あなたによろしくって。」
「そう。」
「やたらニヤニヤしてたけど、まさか…」
「もちろん、恋人だって言った。」
「あなた、馬鹿なの?」
「喧嘩して、俺がちょっと不安にさせてしまったせいだと言っておいた。目を覚ましたら、ちゃんと仲直りする予定だと頭を下げたら、それほど怒られなかった。随分と寛大な親だな。」
「なんで、そんな嘘…」

眉間に少し皺を寄せて、責めるというよりは唖然とした表情の彼女に向けて、俺は話を続けた。

「ついでに言うけど、会社にも同じように説明した。警察も駆けつけたから、会社にも連絡がいったらしい。」
「え?ちょっと…」
「だから、会社中の噂では、今、安井萌は悪女から一転、悲劇のヒロインだ。取引先のボンボンに無理に関係を迫られて、会社に謹慎させられた挙げ句、恋人と喧嘩して、自棄になって自殺を図ったことになってる。」
「…そんな、大嘘じゃない。」

彼女の表情が驚きに染まったかと思えば、今度は、戸惑ったような表情へと変わる。
俺は丁寧に言葉を選びながら話し続けた。

「もう、相手の会社との間で、この件はすでに円満解決してる。知ってるか分からないけど、相手の婚約も破談にもならなかった。この嘘で傷つく人間は誰もいない。」
「でも、あなたは?」
「俺?大丈夫じゃなきゃ、そんな嘘吐かない。そりゃ、今日会社で人事課に呼び出しされたり、ヒソヒソ噂されたり、女子から後ろ指を指されたりしたけど。」
「ごめんなさい。」

申し訳なさそうに俯く彼女を、そっと抱きしめる。

「生きててくれて、よかった。」

思わず俺の口からこぼれた言葉は、まるで愛の告白みたいに甘く響いた。
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