性悪女子のツミとバツ
はじまりの夜
事の始まりは、俺の軽い失恋だった。
入社六年目、本社の管理部から支社の営業課へと異動になった俺は、持ち前の順応力を発揮して、すぐに仕事を軌道に乗せて、充実した日々を送っていた。
同じ課にいた同期の松岡いずみが気になりだしたのも、その頃で。
仕事熱心で、泣き言を一切言わない彼女が、時々見せる天然ボケな一面を知ると、気になって仕方がなくなった。
しかし、それからすぐにアプローチを始めたところで、俺はあっけなく失恋をすることになる。
何度か食事に誘ったのを「彼氏がいるから」と断られても、諦めずに誘い続けていると、ある日、俺の目の前に“彼氏”が現れた。
現れたと言っても、その彼氏とは初対面ではなかった。
むしろ、その逆で、毎日のように顔を合わせている相手───
俺と彼女の上司である、佐藤英介だった。
「悪いな、田村。いずみは俺の恋人なんだ。」
給湯室でいつものように、松岡さんに声を掛けていたところ、佐藤さんが突然入ってきて、彼女の肩を抱いて言った。
俺を睨むわけでもなく、むしろ微笑んですらいる顔に、逆に震え上がる。
知らなかったとはいえ、上司の恋人を口説いていたとは。
「すみません。俺、知らなくて。」
思わず謝罪を口にすれば、「別にいいよ」と返される。