性悪女子のツミとバツ
休職明けの職場は、思っていたよりも居心地は悪くなかった。
「当面は無理しないように。体調が悪かったり、困ったことがあれば、早めに言ってね。」
支社長秘書を務める主任から、復帰して最初に掛けられたのは、そんな優しい言葉で。
彼がついた嘘が、事の真相としてすでに定着していることを知る。
「もう、びっくりしたわよ。みんなが自殺未遂だとか噂するから。田村さんの早とちりだったんでしょ?」
隣席のパートの園田さんは、私が席に着くなり、待ちきれないとばかりに話しかけてきた。
どうやら、自殺未遂だったという噂もちゃんと訂正されているらしい。
「ご心配お掛けして、すみません。少し飲んだ薬の量が多かったみたいで。」
「でも、ホント無事でよかったわ~。もう、すっかり顔色もいいものね。これからもよろしくね。」
「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします。」
でも、興味本位で尋ねているというよりは、心から私を心配してくれているのが、伝わってくる。
「今は、ちゃんと眠れてるの?」
「ええ、お陰さまで、体調はとてもいいです。」
「ご飯もちゃんと食べなきゃダメよ。安井さん、ホントに細いんだから。」
30代後半の園田さんは、小学生と中学生のお子さんがいるため、普段は昼の三時までの勤務だ。
それが、私が休んでいる間は、代わりに業務をこなすために、フルタイム勤務に切り替えてくれていたらしい。
一番迷惑を掛けただろうに、ひとしきり私の心配をした後に、「元気になって、よかったわ」と笑ってくれた。
「昨日、田村君が挨拶に来たよ。」
「そうそう、彼わざわざ私にまで挨拶に来てくれたのよ。」
主任と園田さんが、にこにこしながら報告してくれた。
営業部にいた頃とは違い、異動した総務部で任されたのは、支社長の来客対応や、会議のセッティングなど、秘書の補佐的な仕事だ。
バリバリ働くというよりは、淡々とこなしていくといった内容だったため、少しは真面目に仕事していたとはいえ、特別に人から好かれるような態度ではなかった。
だから、会社に迷惑を掛けた私が、復帰をこんな風に温かく迎えてもらえるのは、全て彼の功績だろう。