性悪女子のツミとバツ


*****

「何回聞いても、どうしてその結論になるのか、分からないんだけど…」

松岡さんは、長く続く私の話をゆっくり聞いてから、最後にそう言った。

「だから、つまり…」
「彼に申し訳ないって気持ちがあるなら、それこそ恋人になってあげればいいのに。」
「そういう訳には、いかないです。“なってあげる”なんて上から物を言える立場じゃないというか。」

この人にだけは、本当のことを話しておきたいと、ずっと思っていたからか。
復帰直後に誘われたランチの席で、気が付けば彼女に全てを打ち明けてしまっていた。

田村さんと恋人ではないこと。
彼と身体を重ねていたこと。
私から御曹司を誘惑していたこと。
松岡さんを勝手に母に重ねて反発していたこと。

するすると私の口から言葉が出て行くのと同時に、私の心はふわりと軽くなった。
そして、松岡さんに改めてお詫びをした。
全てを聞き終えた後、彼女は晴れやかな表情で頷いて、一言「気にしないで」と笑った。
彼女には、こんな風に謝ったくらいでは許されないことをした自覚がある。
でも、彼女はあっさりと私のことを許したのだ。
そればかりか、「安井さんも色々あったのね」と同情までし始めた。

やはり、彼女には適わない。
自分に厳しく仕事も妥協しない女は、他人には驚くほど寛大だった。

そして、誰にも真実を言わない約束を、早々に破ってしまった私を、彼も「松岡さんならいいよ」と咎めることはなかった。
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