性悪女子のツミとバツ
その日の夜。
ベッドに潜り込んだ私に、彼の手が伸びてくる。
いつもは黙って目を閉じたままそれを受け入れる。
でも、今日だけはその瞬間にパチリと瞳を開いた。
「おっ、今までにないパターン。」
彼の少しだけ驚いた顔が、目の前にあった。
至近距離から見つめられて、久しぶりに胸が高鳴った。
同時に、どうしようもなく恥ずかしくなる。
「たまには、エッチでもする?」
苦し紛れに、口から出たのは本当に最低な一言で、自分で自分に落胆した。
「何、急に。したいの?」
「いや、そういうわけでは。」
「じゃあ、何でそんなこと言うの?」
どうにも、照れくさくて。
そんな風に素直に言えない自分に、ますます嫌気が差す。
返す言葉なく黙る私を、彼はふっと小さな笑いを漏らしながら、温かい眼差しで見つめていた。
「抱かないよ。」
「もう、私には欲情しない?」
「そんなわけあるか。」
「じゃあ。何で?」
「身体だけじゃなくて、萌の全部が欲しいから。萌が俺のこと好きって言うまでは、抱かない。」
「一生言わないわよ。」
「毎日、ベッドの中で俺のこと好きになるように念じてるんだけどな。今のところ効果ない?」
「…気持ち悪い。マジでやめて。」
くすくすと笑いながら、ゆっくりと彼の腕の中におさまった。
ゆっくりと目を閉じる。
「田村さん。」
「ん?」
「…何でもない。」
「何だよ。気になるじゃん。」
「今日は、いい夢が見られそう。」
「そりゃ、よかった。」
彼の手が優しく私の髪を梳く。
今までの自分の人生で、一番幸せと感じる瞬間。
ねえ、田村さん。
本当は、とっくの昔に言ってるの。
好き。
大好き。
心の中では、もう何回も。
声に出して言えない想いの代わりに、私は小さな声で「おやすみなさい」と告げた。
「おやすみ」と答えながら、彼は私の身体をしっかりと抱きしめた。
もう少し。
もう少しだけ。
ここに、いてもいいですか。
もう、これ以上の罪は重ねないから。
私は、今日も彼の腕の中で、ゆっくりと浅く幸せな眠りへと落ちていった。
【もう少しだけ end】