性悪女子のツミとバツ

「そういうことね。」

あっさりとした口調で呟いてみたものの、私の目からは堪えきれずに一粒涙が落ちた。
一度堰を切ってしまえば、涙はたちまち溢れ出す。
その涙を拭うことなく、その場に立ち尽くしたまま考える。

最初から彼の気持ちに応えるつもりは無かった。
彼と居る限り、私の中の厚い雲のような罪悪感は消えないし。
私を救ってくれた彼に、私みたいな厄介な女と人生を歩ませる訳にはいかない。
だから、私には彼の心変わりを責める気も更々なければ、後悔もない。

彼がどんな経緯で結婚を決めたのかは知らないが、私には彼の幸せを願うことしか出来ない。


たとえ、どれだけ。
私が彼に惹かれていたとしても。
今、この涙を止める術がなくても。
一人帰る家が寂しく冷たいものだったとしても。
私は、最初からここを出て行くと決めているのだ。

溢れる涙を慌てて素手で拭って、洗面台で顔をばしゃばしゃと洗った。
目を腫らす訳にはいかない。
急いで荷物を纏めなくては。
そこからはただただ必死だった。
部屋中に置かれた私の私物をかき集めて、全てをキャリーケースに詰めた時には。
とても悲しいけれど、どこかスッキリした気持ちだった。
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