性悪女子のツミとバツ

「チクショー。松岡さん、超綺麗だったじゃん。」

独り言を呟きながら、引き出物の入った紙袋を手に、一人でタクシーの列に並んでいた。
週末の夜、駅前のタクシー乗り場は行列だ。

今日は、松岡さんと佐藤さんの結婚式だった。
主役の同僚であり、部下である俺は、ご丁寧にも披露宴にご招待いただいて、指をくわえながら、幸せそうな二人の姿を眺めていた。

部長のやたら佐藤さんをほめたたえるスピーチを聞き、次長から「田村も早く相手を見つけろよ」と発破を掛けられ、「見つけたんですけど、すでに佐藤さんのモノでした」とも言えずに、同僚たちに押し切られて二次会まで行く羽目になり、自棄になってついつい飲み過ぎて現在に至るという訳だ。

たかが、失恋だ。
しかも、かなり傷は浅い方。

そう思ってはみるものの、心は真っ黒な雲に覆われたようだった。
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