性悪女子のツミとバツ

「安井?」

病院に着いて総合窓口に向かう途中で、後ろからタイミングよく声を掛けられた。
ペットボトルのお茶を2本抱えた佐藤さんはこちらを見て、少しだけ笑顔を見せた。

「こっちに、来て。」

慌てた様子の私を見て、彼は全てを悟ったのか、私を田村さんの病室まで案内してくれた。
ベッドの上に横たわる彼は、スヤスヤと眠っているようだった。
二人部屋みたいだけど、もう一方のベッドは空いている。
佐藤さんはベッド脇のイスを差し出して、持っていたペットボトルのお茶を私にすすめると、もう一つのベッドの脇にあったイスに腰掛けた。

「安心して。さっき一度目を覚ましたから。CTも撮ったけど問題なかった。脳震盪らしい。念のため今日は一晩入院しろって。」
「…ありがとうございます。」
「急にびっくりしただろう。うちの木村が連絡したんだって?」

あれからまた会社に連絡を入れたのだろう。私の姿を見てもさほど驚かなかったのは、私が来るかもしれないと知っていたからだ。

「車に接触したって聞いたんですけど。」
「ああ、厳密には、駐車場から出る車がアクセルとブレーキを踏み間違えて、田村が慌てて避けようとしてバランスを崩して倒れたんだ。ただ、倒れた場所が悪くて植え込みで頭を打って。」
「そうですか、よかったです。大したことなくて。」

一通り説明を聞いて、ほっと胸をなで下ろしてから、そっと彼の寝顔を見つめる。とても、気持ちよさそうに寝ているのを見て、今までの緊張が緩んで、思わず涙がこみ上げてきそうになった。
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