性悪女子のツミとバツ

「最近、田村とケンカでもしたの?」
「えっ?」

しばらくの沈黙の後、佐藤さんが心配そうに首を傾げて聞いてきた。
私は突然の質問に、小さく驚きの声を上げた。
どうやら、佐藤さんは私たちが普通の恋人同士だと思っているようだ。
いずみさんは、たとえ夫であっても人の秘密を漏らすような人ではないのだ。

「やっぱり、ケンカしたんだ。最近、田村が珍しく荒れてたから。」

私の困惑した顔を肯定と受け取ったのか、佐藤さんはいたずらをする子どものような顔で話し始めた。

「ケンカの原因は、もしかしてマンション?」
「えっ…どうして?」

佐藤さんの口から思いも寄らない言葉が飛び出して、私は咄嗟に尋ね返した。
ケンカではないが、私が田村さんから離れることを決意したのは、たしかにあのマンションのパンフレットを見つけたことがきっかけだったからだ。

「少し前に、田村から相談されてたから。」

にっこりと笑って答えた佐藤さんは、私の相づちを待たずに話を続ける。

「実はね、うちも子どもが生まれたのを機にマンション買おうかって話をしてて。あ、もしかして、いずみから聞いてる?」
「この前偶然お会いしたときに、ちらっと引っ越されるとは聞きましたけど…」
「うん、会社にも近い便利な場所に新築の物件があって。それを田村に話したら、一緒のマンション買うとか言い出してさ。まあ、うちは俺もいずみも大歓迎だったんだけど。」

え?何で?
何でわざわざ上司と同じマンションを?
まさか、それ程までにいずみさんに未練があったとか?
いや、それなら佐藤さんが大歓迎な訳がないし…

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