性悪女子のツミとバツ
頭の中が、たくさんの疑問で埋め尽くされていく。
私が頭を悩ませている姿を見て、佐藤さんは可笑しそうに笑って言った。

「やっぱり、安井はいやだった?同じマンションなんて。」

佐藤さんの見とれるほどきれいな薄い唇から紡がれたのは、思わず目を丸くしてしまうような言葉だった。
何か勘違いをしているのだと思って、慌てて否定しようとしたところ、佐藤さんが再び口を開いた。

「プロポーズもまだなのに、先にマンション買うなんてめちゃくちゃだって、田村に言ったんだよ。そしたら、田村は、安井に逃げられないために買うんだから、この順番で良いんだって。俺もいずみも秘密だから絶対に言うなって言われてて。」

笑って種明かしをする彼を、呆然と見つめていた。

「田村なりに色々考えてたみたいだよ。最近、安井がいずみと仲が良いから、近くに住んだら、きっと安井も色々相談できて安心するだろうって。確かに、一緒のマンションなんて新築でもなければ、中々買えないし。どうせ結婚するつもりなら、先に買っておいても、まあ、いいんじゃないのって思ってたんだけど。」

相変わらず、ぽかんと宙を見つめる私を、佐藤さんは少し心配そうに覗き込んだ。

「やっぱり、何か揉めた?」

首を傾げる元上司に、私はフルフルと無言で首を振った。

「私が勝手に勘違いしただけで、揉めてはいないです。」

涙がこぼれそうになるのを必死に堪えて笑顔を作った。
揉めていないのは本当のことだ。
勝手に勘違いして、私が彼から離れただけ。
それを聞いて、佐藤さんも「ま、目が覚めたらゆっくり話なよ」と笑った。
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