性悪女子のツミとバツ
「自覚なし?たち悪いな。ああ、俺なんでこんな厄介な女好きになっちゃったんだろ?」

私をきつく抱きしめる腕の力とは裏腹に、彼は突然悪態を吐き始める。

「性悪女かと思えば、色々抱え込んで眠れなくなるくらいメンタル弱いし。人一倍寂しがり屋の癖に、構って欲しいって死んでも言わないような強情女だし。やっとツンデレくらいになってきたかと思えば、急に出てくとか言い出すし。ほんっと、こんなに面倒臭い女、見たことも聞いたこともない。」
「ご、ごめんなさい。」
「ゴメンで済むか。俺さ、自分で言うのも何だけど、今までの人生挫折知らずでさ。恋愛も、絵に描いたような明るい男女交際しかしたことないんだよ。」
「そう、…でしょうね。」
「なのに、急にヘビーなのブッコんでくるなよ。セフレも、情緒不安定な女も、救急車呼んだのも人生初だよ。」
「す、すいません。」
「しかも、人を巻き込んでおいて、自分は急にフェードアウトするなんて、お前は鬼か何かか。俺、失恋して泣いたのも、飯食えなくなったも、一ヶ月で体重五キロ減ったのも、初めてだぞ。」
「へっ?五キロも!?」

慌てて顔を上げれば、いたずらが成功した時のように得意げに笑う彼と目が合った。いつだって、この自信たっぷりの笑顔のまま、彼は優しく私に触れるのだ。

「だから、ちゃんと責任取って。」
「…うん。」

抱きしめながら私の髪を愛おしげに梳く彼の一言に、私はそれ以上言葉が出ずに、大きく頷いた。

ちゃんと、責任取るよ。
もう絶対に逃げない。

その思いを込めて、もう一度彼の瞳を見つめれば、彼は照れたように笑った。

「いや、調子に乗りすぎか。一生のお願いだから、戻ってきて。」
「…戻ってもいいの?」
「うん。もう、俺、萌が居ないと生きてけない。」

大げさでも何でもなく、とてもナチュラルに告げられた一言は、奇しくも、私の頭の中にある思いとぴったりと重なった。
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