性悪女子のツミとバツ
次の日。
午前中に退院した彼は、周りの心配をよそに午後から出社して仕事をしていた。
その姿を見てほっと胸をなで下ろす。
彼の事故と私が急にオフィスを飛び出したことは、すでに周知の事実で、私が流した破局の噂はきれいさっぱり消えていた。
聞けば、元々密かに噂好きの園田さんが破局説自体をもみ消していたらしい。道理で思ったより広まらなかった訳だ。
「どうせ、すぐに元サヤに収まると思ってたのよ」と言う彼女に、呆気にとられながらも理由を尋ねれば「だってどう見てもお互いにベタ惚れでしょう?」と笑われた。
なんだか全てを見透かされていたみたいで、恥ずかしい。
定時過ぎに、「一緒に帰ろう」と迎えに来た彼と並んで会社を出て歩いた。
こちらに向けられる周りのなまあたたかい視線が気になるが、今日ばかりは甘んじて受け止めよう。
二人で一緒に帰る、その先は
すっかり住み慣れた、彼の部屋だ。
久々に足を踏み入れたその場所は
本当に何も変わっていなかった。
ただ、見事に飲み物しか入っていない冷蔵庫と、ベランダに積まれたビールの空き缶のゴミ袋が、彼のこのところの食生活を物語っていた。
途中で寄り道したスーパーで買った食材を取り出して、すでに勝手知ったるキッチンに立てば、あっという間に夕食が出来上がった。
調理時間重視の手抜きメニューにも関わらず、彼は嬉しそうに箸を運ぶ。
まるで数ヶ月のブランクなど無かったかのように、私は楽園にあっさりと舞い戻ってきた。