性悪女子のツミとバツ
「萌、おいで。」
同じシャンプーの香りを漂わせながら、セミダブルのベッドの中で彼が私を抱き寄せる。
腕の中で見上げれば、彼は満足そうな顔で私の額に一つ小さなキスを落とした。
あれから一週間。
週末には、私の部屋から当面の荷物を運んで、再び私は彼の部屋で暮らし始めた。
私のアパートは今月末に引き払うことにして、会社にも役所にもちゃんと転居を届け出る予定だ。互いの親にも取り急ぎ連絡した。これで、仮住まいでも一時的な同居でもなくて、立派な同棲だ。
そして。
一週間安静を言い渡されていた彼の体調も問題なく、数ヶ月振りに私たちは体を重ねた。
(ちなみに病院に付き添ったら、真面目な顔で先生にセックスしてもいいか聞くので、私は隣で苦笑するしかなかった)
彼は以前とは別人のように、とても丁寧に私を抱いた。
ゆっくりと時間を掛けて、互いの愛情を確かめ合うように交わる。
荒い呼吸の狭間に耳元で何度も私の名を愛おしげに呟く彼に、身も心もすっかり溶かされる。
「これが俺の標準なんだけど。」
私の中で果てた彼が息をととのえながら囁いたのを、何が言いたいのか分からずに首を傾げていたら、今度は直球を投げられた。
「前みたいにイカレたセックスのが良ければ、努力してみるけど?」
「…いや、あれはもう忘れて。」
「忘れんのは、無理。あの萌のエロい顔だけは捨てがたい。」
「あの時の私はどうかしてたの。」
「じゃあ、今日の方がよかった?」
「わざわざ、言わなきゃダメ?何となく分かってる癖に。」
可愛げなく拗ねる私に、彼はいつもの余裕たっぷりの顔で「分からない」と言って笑った。
絶対に分かってるくせにと思いつつも、彼に笑顔で促されて渋々言葉にする。
「今日の方が、ちゃんと愛されてる気がした。」
言った瞬間、あまりの恥ずかしさにシーツを被った。その姿を見てくすくす笑いながら、彼がシーツごと私を抱きしめる。
「やっと、俺の念が通じたか。」
その日、私はシーツと彼の腕にくるまれながら、ゆっくりと深い眠りへと落ちていった。