性悪女子のツミとバツ

「いつもの買ってきた。今日は食べられそう?」

コンビニ袋の中から取り出された“いつもの”を見ると、少しだけ食欲が湧いた。
食べられるか否かは、それを目にした瞬間に分かる。
今日は大丈夫なようだ。

「うん、ありがとう。後で食べる。」
「無理するなよ。他の物が良ければ、また買いに行くから。」
「大丈夫だと思う。当分はこれで。」
「じゃあ、ここに置いとくな。怠かったら寝たまま食べてもいいから。」

いつでも手を伸ばせるようにと、彼はそれをベッド脇のテーブルに置く。
小さなテーブルの上に控えめにちょこんと乗せられたものが、今、私の生命を繋いでいる。

「毎日、同じ組み合わせで買ってくからさ。コンビニの店員に、俺、相当な偏食だと思われてるかも。」

スーツを脱いで部屋着に着替えながら、彼は笑って話し出す。
私も力なく笑って言葉を返した。

「ごめんね。変な組み合わせで。」

炭酸飲料とクリームパン。
お世辞にも健康的な食事とは言えないが、絶食するよりは幾分かマシだろう。

「気にするなよ。食べられるもの食べればいいって、先生にも言われたんだろ?」
「…うん。」

着替えの終わった彼が、再び私のベッドに歩み寄る。

「ごめん。萌が苦しんでるところ悪いんだけど…」

彼は微笑みながら、左手で私のおでこを優しく撫でて、右手を大切なものを包み込むように、私のお腹に乗せる。
もうすでに、毎日恒例の儀式のようになっている。

「俺は、めちゃくちゃ幸せ。」

そう呟いて微笑む彼は、もうすっかり父親の顔で。
彼の右手の下、私のおなかの中には新しい命が宿っていて、クリームパンと炭酸飲料の栄養でも、ちゃんと成長してくれている。

彼の両手から伝わる温もりに、幾分か身体が楽になった。
かつて、彼の腕の中だけでスヤスヤと眠れたように。
彼にこうして触れられるだけで、不思議と悪阻の症状は軽くなるらしい。



私も、最高に幸せ。

照れくさくてとても言い出せそうにない本音を、心の中だけでそっと呟いた。
< 56 / 68 >

この作品をシェア

pagetop