性悪女子のツミとバツ
体調の変化に気が付いたのは、およそ一ヶ月前。
朝起きた時から胃がムカムカして、身体が何となく怠かった。それでも、熱も無いし休む程ではない。 多分、軽い風邪だろうと、いつも通りに出社して仕事をこなしていた。
その日のランチはいずみさんと約束していて、一緒に会社近くのカフェへ行く。
しかし、メニューを見ても全く食欲が湧かずに、結局ドリンクのみを頼んだ。
「萌ちゃん、大丈夫?」
心配そうに私の顔を覗き込むいずみさんに、「風邪ひいたみたいです」と朝からの体調不良を打ち明ける。
すると、私の話を聞いていたいずみさんが、急に何かを閃いたように目を大きく見開いて、私に問い掛ける。
「萌ちゃん、風邪薬飲んだ?」
「いや、ちょうど切らしてて。ひどくなるようなら今日の帰りに薬局で買っていこうかと…」
「よかった、絶対に飲んじゃダメよ。」
「えっ?」
意外な忠告に、思わず怪訝な表情を浮かべれば、いずみさんは声を潜めて控えめに尋ねてきた。
「萌ちゃん、その、えっと…聞きづらいんだけど……生理はちゃんときてる?」
その一言で彼女が何を言わんとしているかが分かった。
元々、月に一度のソレが遅れることはよくあったため、大して気にも留めていなかったが、思えば二ヶ月以上来ていない気がする。
えっ、まさか……。
たどり着いた可能性に、一瞬呆然として表情が固まる。
それを彼女は肯定と取ったのだろう。
「自分で調べる?それとも、病院行くなら付き添おうか?」
私の様子から不安を感じ取って、彼女はいつも以上に優しく必要な言葉を掛けてくれる。
そのあまりの心強さに、つい甘えてしまいそうになる気持ちを抑えて、私は彼女の目をまっすぐ見つめて頷いた。
「大丈夫です。取りあえず、自分で調べます。」
「困った事があったら、遠慮なく頼ってね。」
私の返答に彼女は微笑みながら、自分が注文したグレープフルーツジュースを渡してくれた。
彼女が「いつもより美味しく感じるはず」と予告したとおり、さわやかな苦味と酸味が私の喉を心地よく通り過ぎていった。