性悪女子のツミとバツ
「ああ、安井も北区だっけ?」
「そうです。一緒に帰りませんか?」

「一緒に帰る」と言いながら、本音は「送ってくれ」だろう。
彼女は今日二次会から参加していたから、荷物は多くなく身軽だった。
それでも、酔って電車で帰るのが面倒くさくなって、タクシー乗り場へとやってきたのだろう。
そして、タクシー代を浮かせるための恰好のカモを見つけたわけだ。

「ああ、だけど。やっぱり飲み直そうと思ってたところなんだ。良かったら順番を譲るよ。」

そう言って、嘘くさく微笑んだ。


安井萌は、いわゆる性悪女だ。

若くて可愛らしい容姿を武器に、男を手玉に取るのが上手くて。
オシャレと恋愛にしか興味はないのか、お世辞にも真面目に仕事をしているとは言えず、定時を過ぎれば仕事を放り出してデートや合コンへと繰り出す。
仕事で困ったら、周りの男に泣きついて手伝ってもらうこともしばしばで。
あまりの不真面目さに、指導係の松岡さんもかなり手を焼いていた。
俺を含めて、課の男どもも最初は騙されていたが、すぐに本性を知って、適当にあしらうようになった。
セクハラだパワハラだと騒がれても、面倒くさい。
そんな訳で、すっかりお姫様きどりだった彼女も、誰かが人事に進言したのか、次の年度にすぐに総務部に異動になった。

今では支社長秘書のアシスタントをしていて。
元々外面はよく、来客対応だけは唯一まともだったし、本人も内勤希望だったようだから、今のところ、一応問題なく仕事をしていると聞いていた。

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