性悪女子のツミとバツ

「じゃあ、私もご一緒しますよ。」

俺の思惑に気が付いたのか、安井萌は首を傾げて、可愛らしく誘ってきた。
どうしても、タクシー代を浮かせたいのか。
それとも、タダ酒を飲みたいのか。
いずれにしても、俺が理想がやたら高いらしい彼女のターゲットになることはないだろうから、そんな所だろう。

「付き合ってもらわなくても、タクシー代くらいあげるよ。」

とても彼女の相手をする気になれなかった俺は、あからさまに意地悪く断った。
今まで一度も、表面上は彼女を邪険にするような態度を取ったことはない。
けれども、今晩は思いの外、落ち込んでいて余裕がなかったのか、無性に安井に苛立っていた。

言ってしまってから、しまったと思ったが、引っ込みがつかず、財布から一万円札を取り出して彼女の前に差し出す。
さすがに、バカにされて彼女も激昂するかと思いきや、次に俺が目の当たりにしたのは、彼女の意外な反応だった。

「あら、残念。折角、慰めてあげようと思ったのに。」

俺が取り繕うのを止めて、本音で対応したせいか、安井萌もいつものブリッコな仮面を外したようだ。
それでいて、俺が差し出した一万円札には見向きもせずに、上目遣いでこちらを見ている。
俺の失恋については、当事者以外には誰にも知られてはいないはずだった。
なのに、目の前の女はすべて分かっているように意味深に微笑んでいる。
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