うそつきハムスターの恋人
迷子の書類
日本最多店舗数を誇るコーヒーショップチェーン、株式会社May's coffee shop(メイズコーヒーショップ) 、通称メイズの営業本部広域営業ニ課には、時おり他の部署宛の郵便物が紛れ込む。
一階に直営のメイズコーヒーショップが入る十三階建てオフィスビルの、十階から十三階のフロアがメイズの本社。
営業本部はその十階にあり、さらに広域営業ニ課が入口すぐの場所に配置されているため、フロアや部署が書かれていない郵便物は全てここに配達されてしまうのだ。
「店舗開発部の壇内(だんない)さん宛のメール便、見てないよね?」
午後四時のオフィス。
内線電話を切ったばかりの先輩の喜多(きた)さんの言葉に、私は発注データを入力していた手を止めてデスクの上を見回した。
前と左右についたてがある、クローズドオフィス。
付箋がびっしりと貼られたパソコン、レターボックス、内線電話、電卓、バインダー数冊、未処理の発注伝票、キティちゃんの三色ボールペン、さっき課長にもらったチョコレート、テイクアウトカップに入ったメイズのカフェラテ 、それに山積みの書類などなど 。
「えーっと、ちょっと待ってください。これかな?」
山積みの書類の中に茶封筒があるのに気付き、山が崩れないようにそっと抜き出した。
まるでジェンガのよう。
息をひそめて、慎重に。
「あ、違う。これは奥田(おくだ)さん宛って書いてる」
壇内さんじゃないけど、これはこれで届けなくちゃ。
どこの部署か調べるのが面倒だな。
封筒をさきほどの書類の頂上にぽんと戻して「壇内さん宛は届いてませんね」と結論づけると、喜多さんはネコ目メイクを施した瞳をまんまるにして私を凝視していた。
「大澤(おおさわ)、ちょっとそれ、壇内さんのメール便じゃない!」
「え? 違いますよ? これ、奥田さん宛って……」
喜多さんは、私が置いたばかりの封筒を手にして、やばいよやばいよとぶつぶつ繰り返した。
「そっか。大澤、知らなかったんだ。そうだよね、教えてなかった私が悪いんだけど。だんないさんって、あだ名なんだ」
喜多さんがいうには、" 壇内さん "とは京都出身で何かあるとすぐに「だんないだんない」と言うことから、社内でだんないさんと、呼ばれている……奥田さんという名前の部長らしい。
「 " だんない " って構わないとか、大丈夫っていう意味らしいんだけど、そのだんないさんが、今回はすっごく焦ってこのメール便を必死で探してるらしいの」
「構わない大丈夫、が口癖の人が焦ってるって、本気でやばいやつじゃないですかぁ!」
思わず立ち上がり、喜多さんが持っていた書類を掴むと、私は駆け出す。
「あ、大澤! 私が行こうか?」
後ろから声がしたけれど、「大丈夫ですっ!」と振り返らずにこたえて部署を飛び出した。
一階に直営のメイズコーヒーショップが入る十三階建てオフィスビルの、十階から十三階のフロアがメイズの本社。
営業本部はその十階にあり、さらに広域営業ニ課が入口すぐの場所に配置されているため、フロアや部署が書かれていない郵便物は全てここに配達されてしまうのだ。
「店舗開発部の壇内(だんない)さん宛のメール便、見てないよね?」
午後四時のオフィス。
内線電話を切ったばかりの先輩の喜多(きた)さんの言葉に、私は発注データを入力していた手を止めてデスクの上を見回した。
前と左右についたてがある、クローズドオフィス。
付箋がびっしりと貼られたパソコン、レターボックス、内線電話、電卓、バインダー数冊、未処理の発注伝票、キティちゃんの三色ボールペン、さっき課長にもらったチョコレート、テイクアウトカップに入ったメイズのカフェラテ 、それに山積みの書類などなど 。
「えーっと、ちょっと待ってください。これかな?」
山積みの書類の中に茶封筒があるのに気付き、山が崩れないようにそっと抜き出した。
まるでジェンガのよう。
息をひそめて、慎重に。
「あ、違う。これは奥田(おくだ)さん宛って書いてる」
壇内さんじゃないけど、これはこれで届けなくちゃ。
どこの部署か調べるのが面倒だな。
封筒をさきほどの書類の頂上にぽんと戻して「壇内さん宛は届いてませんね」と結論づけると、喜多さんはネコ目メイクを施した瞳をまんまるにして私を凝視していた。
「大澤(おおさわ)、ちょっとそれ、壇内さんのメール便じゃない!」
「え? 違いますよ? これ、奥田さん宛って……」
喜多さんは、私が置いたばかりの封筒を手にして、やばいよやばいよとぶつぶつ繰り返した。
「そっか。大澤、知らなかったんだ。そうだよね、教えてなかった私が悪いんだけど。だんないさんって、あだ名なんだ」
喜多さんがいうには、" 壇内さん "とは京都出身で何かあるとすぐに「だんないだんない」と言うことから、社内でだんないさんと、呼ばれている……奥田さんという名前の部長らしい。
「 " だんない " って構わないとか、大丈夫っていう意味らしいんだけど、そのだんないさんが、今回はすっごく焦ってこのメール便を必死で探してるらしいの」
「構わない大丈夫、が口癖の人が焦ってるって、本気でやばいやつじゃないですかぁ!」
思わず立ち上がり、喜多さんが持っていた書類を掴むと、私は駆け出す。
「あ、大澤! 私が行こうか?」
後ろから声がしたけれど、「大丈夫ですっ!」と振り返らずにこたえて部署を飛び出した。
< 1 / 110 >