うそつきハムスターの恋人
「……だって」

私の大好きだったあの店はもうつぶされてしまった。
あんなにすてきな店だったのに。
古くてもみんなで大事に守ってきた店だったのに。
壁や机の傷、ひとつひとつが歴史だった。
時間をかけて、オーナーや店長やいままでのスタッフが作り上げてきたもの。

「あんないい店、もうどこにもないんだもん。あの店はもうなくなっちゃったんだもん。私が店長になったって、あんな店にはならないもん」

一気に話して、肩で息をする。
木枯らしが吹いて私の髪を乱した。

「違うよ」

夏生が静かな声で言った。
静かだけど、風の音に負けないくらい強い声だった。

「いい店に " なる " んじゃない。いい店を " 作る " んだよ」

『作るんだよ』

それは思いがけない言葉だった。
今まで考えたこともなかった。

私は顔を上げた。
夏生と目が合う。

「時間が経てば勝手にいい店になるってもんじゃない。そこで働く人が作るもんなんだよ」

「……作る?」

私は夏生の目をじっと見つめたまま、聞き返す。

「……私に作れる?」

そんなことが、私にできる?

「絶対に作れる。しずくならできる。それに、店長がひとりでやるんじゃない。スタッフみんなで作るんだよ。仕事はみんなでやるんだって言っただろ? しずくはひとりじゃない。俺たちスーパーバイザーもついてる」

「……スーパーバイザーも?」

「そう、みんなで。そのために俺たちがいる。しずくが店長になったら、俺が担当してやる。俺は伝説のスーパーバイザーだからな」

夏生はちょっと得意気な顔をした。

そっか。
私が店長になったら、夏生が担当してくれるのか。
ちょっと厳しそう。
だけど、きっとものすごく力になってくれる。

それもいいな、と私は思った。

恋人にはなれなかったけど、店長と担当スーパーバイザーとして、これからも繋がれたらいいな。
少しでも、夏生と繋がっていたいな。
こんな風に、少しでも顔を見て話したいな。

私は夏生を見上げて微笑んだ。

「やってみようかな」

夏生はにっこりと笑ってくれた。

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