うそつきハムスターの恋人
広域営業二課に入ると、まず課長の席に向かった。
「課長、おはようございます」
「ああ、おはよう。病院はどうだった?」
早退させてもらったことのお礼を言ったあとに昨日の診察結果を話すと、課長はおお、とのけぞった。
「水嶋くんが骨折? そう。大変だったねえ。で、水嶋くんは出勤してる? がんばるねえ、彼」
課長は目をしぱしぱさせながら、何度もああそう、とうなずく。
驚いたときの課長の癖なのだ。
「いやぁでもね、大澤さんに怪我がなくてなりよりだった。あとで、FC運営課にお礼の電話いれておこう」
私はなんだか照れくさくなってうつむく。
これじゃあまるで、私は課長の娘みたいだ。
うちの会社は大きい会社の割りに、社員はみんな家族、という雰囲気がある。
会社の「May's」という商標が、創業者であり現会長の奥様、芽衣子(めいこ)さんに由来していることが関係しているのかもしれない。
家族思いだった会長の方針は、跡を継いだ社長にも受け継がれているようだ。
自分のデスクに戻ると、向かいの加地くんが書類越しに声をかけてきた。
「よかったね、なんともなくて」
「ありがと。昨日、先に帰ってごめんね」
「大丈夫。何件か大澤さん宛てに電話あったから、付箋貼っておいた。後で確認お願い」
私のパソコンの縁には、もうこれ以上貼るところがないくらい、付箋が貼られている。
それをひとつひとつ確認しながら仕事をしていると、商品企画部から戻ってきた喜多さんにぽんと肩をたたかれた。
「おはよ。大澤、なんかすごい噂になってるよ」
「噂?」
「昨日の事件もだけど、今朝、一緒に出勤してたんだって? 水嶋くんと」
喜多さんの瞳がきらきらとしている。
私はなにも答えなかった。
なんて言えばいいかわからなかったのだ。
水嶋さんは昨日のことを内緒にしておきたいみたいだったし、さらに一緒に生活しているなんて事が知られたら今度はどんな噂が流れるか、考えただけで恐ろしい。
「今日のランチのときに、ゆっくり聞く」
喜多さんは私の耳元で低い声を出した。
全身に鳥肌がぞわっと立った。
「課長、おはようございます」
「ああ、おはよう。病院はどうだった?」
早退させてもらったことのお礼を言ったあとに昨日の診察結果を話すと、課長はおお、とのけぞった。
「水嶋くんが骨折? そう。大変だったねえ。で、水嶋くんは出勤してる? がんばるねえ、彼」
課長は目をしぱしぱさせながら、何度もああそう、とうなずく。
驚いたときの課長の癖なのだ。
「いやぁでもね、大澤さんに怪我がなくてなりよりだった。あとで、FC運営課にお礼の電話いれておこう」
私はなんだか照れくさくなってうつむく。
これじゃあまるで、私は課長の娘みたいだ。
うちの会社は大きい会社の割りに、社員はみんな家族、という雰囲気がある。
会社の「May's」という商標が、創業者であり現会長の奥様、芽衣子(めいこ)さんに由来していることが関係しているのかもしれない。
家族思いだった会長の方針は、跡を継いだ社長にも受け継がれているようだ。
自分のデスクに戻ると、向かいの加地くんが書類越しに声をかけてきた。
「よかったね、なんともなくて」
「ありがと。昨日、先に帰ってごめんね」
「大丈夫。何件か大澤さん宛てに電話あったから、付箋貼っておいた。後で確認お願い」
私のパソコンの縁には、もうこれ以上貼るところがないくらい、付箋が貼られている。
それをひとつひとつ確認しながら仕事をしていると、商品企画部から戻ってきた喜多さんにぽんと肩をたたかれた。
「おはよ。大澤、なんかすごい噂になってるよ」
「噂?」
「昨日の事件もだけど、今朝、一緒に出勤してたんだって? 水嶋くんと」
喜多さんの瞳がきらきらとしている。
私はなにも答えなかった。
なんて言えばいいかわからなかったのだ。
水嶋さんは昨日のことを内緒にしておきたいみたいだったし、さらに一緒に生活しているなんて事が知られたら今度はどんな噂が流れるか、考えただけで恐ろしい。
「今日のランチのときに、ゆっくり聞く」
喜多さんは私の耳元で低い声を出した。
全身に鳥肌がぞわっと立った。