うそつきハムスターの恋人
他の課にはないのだけど、二課にだけは課長手作りの休憩スペースがある。
一人掛けのソファがふたつと小さなテーブルが置かれ、二課のすみにパーテーションで仕切られただけのスペースだけど、その狭さがなんとも落ち着くので、二課の社員はみんな気に入っている。

その休憩スペースでサンドイッチを食べながら、加地くんはあきれたように言った。

「水嶋さんっていつもあんな感じなの?」

「あんな感じって?」

温かいカフェラテに息を吹きかけて冷ましていた私は顔を上げた。

「なんか、闘争心がむき出しだよね」

「……そうかな?」

でもたしかに、さっきの夏生は少し変だった。
急に不機嫌になったし、加地くんに対してもきつい言い方をした。
そういえば、前に加地くんがラズベリーのスコーンをごちそうしてくれる、って言った時も急に怒り出したりして変だった。

「すごいやきもちやきなんだね、水嶋さん」

「……やきもち?」

そんなはずはない。
だって私たちは偽りの恋人なのだ。
私が誰とランチをしようと、夏生がやきもちなんてやくはずはない。

それとも、仲のいい恋人を演じるために、やきもちを妬いているふりをしているのだろうか。

「やきもちでしょ、あれは」

加地くんはおかしそうに笑う。

「ごめん、なんか面白くってちょっと挑発しちゃった」

「挑発って……」

いつもはパステルカラーみたいにやわらかな印象の加地くんらしかぬ物言いに、思わずぎょっとする。

「俺、こう見えて意外と悪いやつだったりして」

加地くんは、いたずらっぽく鼻にしわを寄せて笑うと続けた。

「そう言えば、水嶋さんと大澤さん、お揃いだったね。仲いいんだね」

社内恋愛、俺もしたいなぁと言いながら、加地くんはふわりと笑った。
もういつもの加地くんだった。

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