うそつきハムスターの恋人
「……大澤さん?」

加地くんの声がしてゆっくりと顔を上げると、加地くんがこわごわと私を覗き込んでいた。
帰るところだったのだろう。
リュックタイプのビジネスバッグを背負って、白い大きなヘッドホンを首にかけている。

「びっくりした。幽霊かと思った」

加地くんはほっとしたように息を吐いてから、私の近くまで歩いてきた。
あわてて手の甲で涙を拭いたけど、加地くんは驚いた顔をして私をじっと見つめている。

「……なんか、あった?」

加地くんは訊ねながら私の前にしゃがみこむ。

「……ちょっとね」

「水嶋さんと喧嘩でもした?」

「……してないよ」

「じゃあ……どうした?」

こういうときに、加地くんの優しい声とか話し方とかは本当にこたえる。

また涙腺がゆるんで、ぐすっと鼻をすすると、加地くんは「水嶋さんのことでなんかあった?」と少し聞き方を変えた。

こくりとうなづくと、加地くんは「なにやってんだよ水嶋さん」とつぶやいた。

「大澤さん」

「……ん?」

「ぱーっと飲みにいこっか、ふたりで」

加地くんは少したれ目の瞳を細めて、私を穏やかに見ていた。

その包み込むような眼差しを見ていたら、少しだけ加地くんの優しさに甘えたくなった。

加地くんがいこ、と私の手を取って立ち上がった。
そっとその手を握り返して、私は小さくうんとうなづいた。

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