うそつきハムスターの恋人
暗くなった夜道を、加地くんは夏生のマンションまで送ってくれた。
冷たい風が吹いてまるで冬の夜のようだ。
アルコールでほてった頬が冷まされて気持ちよかった。

夏生がまだ帰ってなかったら、どうしよう。
加地くんに気をつかわせないように、鍵がないことだけは気づかれないようにしなくちゃ。

「あ、そこ曲がったところだから、ここでいいよ」

私が立ち止まると、加地くんは振り向いて「マンションに入るまで見送るよ」と微笑む。

「大丈夫だよ。これ以上遅くなったら電車なくなっちゃうよ」

「大丈夫じゃないの。こんな遅い時間に女の子を一人で歩かせるわけにいかないでしょ」

加地くんはわざと怒った顔をした。

「……女の子なんだ、私」

夏生にはハムスターみたいとか、色気ないとか言われちゃうけど。

下を向くと、風に吹かれてストライプ柄のスカートが揺れているのが見える。

「女の子だよ」

加地くんがそっと私の右頬に触れた。
びっくりして顔を上げると、加地くんは手を離して「ごめん、またやっちゃった」と、恥ずかしそうに笑う。

「さっきの曲だけど」

再び歩き出しながら、加地くんは夜空を見上げた。

「さっき聞かせた曲だけど、あれfull moonって曲なんだ」

私もつられて夜空を見上げた。
きれいな満月だった。

「今の気分にぴったりな曲だな」

「今日が満月だから?」

「うん。今日が満月だから」

加地くんは、ふんわりと笑ってそう言った。
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