うそつきハムスターの恋人
シャワーを浴びて、夏生の部屋に入ると、スタンドライトだけがついていて、夏生はもうベッドの中だった。
ベッドの左側が、夏生の形にふくらんでいる。

布団をめくってベッドの端に潜り込むと、夏生が腕を伸ばしてスタンドライトを消した。

「落ち着いた?」

静かな声で夏生が訊ねる。

「うん」

「……ひとつだけ、教えてほしいんだけど」

「……なに?」

夏生はしばらく黙っていた。
私はまっくらな天井を見つめていた。
暗さに目がなれてきた頃、ようやく夏生が口を開いた。

「しずくは……加地くんのことが、好きなのか?」

思わぬ質問に、思わず隣を向くと、夏生もこっちを向いているのがぼんやりと見えた。

暗闇のなかでずいぶん長い間、私たちは黙って見つめ合った。

「……嫌いじゃない。でも好きかって聞かれたらそうじゃない」

夏生が聞いているのはきっと、私が加地くんを " 男として " 好きなのかだと思った。
だから、そう答えた。

「……わかった、おやすみ」

夏生は私から天井に目をうつすと、まっくらな空間をしばらく見つめてから目を閉じた。

「……おやすみ」

私は夏生に背をむけて目を閉じた。

だいっきらいなんて言ってごめん、って言えなかった。
あれは嘘だよ、って言えなかった。

一度口から出た言葉はもう取り返すことができなくて、後悔ばかりが胸に降り積もっていった。
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