うそつきハムスターの恋人
二課に入ると、喜多さんがにやにやしながら加地くんと話をしていた。
さっきのことを話しているんだな、とすぐにわかった。

「お、きたきた。大澤よ、あんたは幸せものだねぇ」

私が出勤したことに気付くと、喜多さんは素早く寄ってきて私の肩をばんばんと叩く。

「いっ、痛いです。喜多さん」

「私までしあわせな気持ちになっちゃったじゃないのよ、もうっ」

「それは良かったです、はい」

しばらくそんな会話を繰り返していた喜多さんが、ようやく落ち着いて席に座ると、向かいの席からくすくすと笑い声が聞こえた。

「加地くん、おはよう」

加地くんの顔が見えるように、書類をそこだけどかしてあいさつをする。
昨日、抱き締められたことを一瞬思い出して、少しだけ緊張した。

加地くんは、あいさつを返してから「昨日はありがとう」と小声で言う。

「こっちこそありがとう」

「元気そうで安心した」

加地くんは片肘で頬杖をついて、私を見ながらにっこり笑う。

「加地くーん、ちょっといい?」

先輩に呼ばれて、加地くんははーい、といい返事をして立ち上がった。

良かった。
加地くんもいつも通りだ。
昨日は自分でも言っていた通り、きっと酔っぱらっていたからあんなことをしたんだ。

私はほっとしてパソコンを起動させた。
六時に退社するためには、考え事なんてしている時間はない。
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