うそつきハムスターの恋人
夏生のマフラー
十一月も終わりに近づき、少しずつ季節が秋から冬へと変わり始めている。

土曜日、私は朝からフレンチトーストを作った。
それをちいさくちいさく、一口サイズにしてフォークを添えて夏生に出す。

「うまそー」

フレンチトーストが大好きな夏生は左手でフォークを持つと、嬉しそうに食べ始めた。

右手が使えない夏生のために、こうして食べやすくしたり、スプーンで食べれるように工夫したりすることにも慣れてきた。

最近、夏生は家にいるときは、三角巾を外している。
首の後ろが結び目でこすれて痛いのと、肩が凝るから嫌なのだと言う。
三角巾がないだけで、夏生は少し動きやすそうだ。

朝ごはんのあと、ベランダでふたり分の洗濯物を干した。

干しながら道路を見下ろすと、小さな犬と散歩をしているおばあさんや、自転車にふたり乗りをしている高校生くらいのカップルが見えた。

空気が乾燥している。
洗濯物もよく乾きそうだ。

洗濯かごを抱えてリビングに戻ると、ソファに寝そべっていた夏生が体を起こした。

「しずく、ふたりで出かけようか?」

私は足を止める。

『俺、行きたいところがあって。来週、行けたら行こうか』

先週の日曜日に夏生が言った言葉を私はちゃんと覚えていて、木曜日くらいから本当はそわそわしていたのに。

「ちょっと今日は忙しいんだよね」

なんて言ってしまう自分は本当にかわいくないと思う。

「掃除機もまだかけてないし、お風呂場の掃除もしたいし、冷蔵庫も空っぽだし」

「掃除機ならしたよ。風呂場の掃除も」

「え? いつ?」

「朝。しずくが寝てる間に」

夏生はなんでもないことみたいに言うけど、片手しか使えないのに。

「だから行こ」

私は精一杯、仕方ないなぁという表情を作りながらうなづいた。
ちゃんとそんな表情になっていたという自信はないけれど。

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