うそつきハムスターの恋人
メイズを出たあと、私と夏生はふたりでスーパーに寄って、買い物をして帰った。
たくさん食材が入った冷蔵庫を見て、私は満たされた気持ちになった。

近所のパン屋さんで買ってきたパンで簡単にお昼ご飯をすませると、私はベッドに入って夏生に借りた本を読む。

夏生の部屋のラックには、経済学、マネジメント、ビジネス実用といったものから、推理小説、オカルト、考古学、歴史、建築、哲学に至るまで、よくこんなにも多種多様な本を集めたなと思うくらい、たくさんの本や雑誌が置いてある。
それを、時間がある時に借りて、ベッドで読むのが最近のお気に入りなのだ。

「今日はなに読んでんの?」

まだ明るいのに、夏生は缶ビールを飲みながら部屋に入ってきた。

「あ、ビールずるい」

起き上がって私が抗議すると、夏生はしずくも飲む?と笑って、私に飲んでいた缶ビールを手渡す。

「この本読んでたの」

ビールをひとくち飲んで夏生に返すと、夏生は私が見せた本の表紙を見て、なんでそれ?と吹き出した。

私が読んでいたのは、UFOとかUMAについての雑誌で、内容は限りなく嘘っぽくて胡散臭い。

『ついに発見か!? これがツチノコだ!』

なんて言葉とともに写真が載っているけれど、ピントが甘くて蛇にしか見えない。

「いると思う? UFOとか、UMAとか」

ベッドに寝転びながら私が聞くと、夏生は、「どうかな」と笑い、ビールの缶をサイドテーブルに置いた。

それから、布団をめくってベッドに横向きに寝転がり、私の横顔を見つめている。

私が落ち着かない気分で雑誌を見ていると、夏生がつぶやくように言った。

「しずくの耳、いっつも髪の毛で隠れてるけど、すごくきれいな形してる」

「……そうかな」

「あ、赤くなった」

夏生はおかしそうに笑った。

「ちょっとさわってみてもいい?」

夏生はそう言うと、指先でそっと私の耳たぶにふれる。
くすぐったくて、私は身震いする。

「やわらかくて気持ちいい。癖になりそう」

夏生がそう言って微笑んだのがわかった。

そんなの困る。
癖になったら困る。
私はずっと夏生のそばにいるわけじゃないんだからね。

私だって困る。
いつか夏生がいなくなった時に、よけいに寂しくなるから。

だから、こんなの癖になったら困る。

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