うそつきハムスターの恋人
週明けの月曜日、私たちはふたり揃って寝過ごした。
昨日の夜、深夜に古い映画をしているのに気づいて、最後まで見てしまったのだ。

毛布を持ってきて、リビングのソファで見た。
ふたりでビールもたくさん飲んだ。

とにかくたくさんのゾンビが出てくる、B級映画だった。
下らなくて、ホラーなのに笑えた。

だけど、私たちは最後まで見た。
ふたりで毛布にくるまって。

「しずく、首もとが寒そうだな」

あわただしく家を出て、会社に向かって走りながら、夏生は言った。

急いで出てきたので、私はマフラーを忘れてきたのだ。
マフラーがないだけで、首もとから風が入ってきて寒かったけど、取りに帰るわけにもいかないので、私は我慢して走っていた。

「これでも巻いとけ」

夏生は立ち止まると、自分がしていた紺色のマフラーを取って、私の首にぐるぐると巻いた。
そして、マフラーの中に入った私の髪の毛をふんわりと出してくれる。

「え? いいよいいよ、大丈夫。夏生のほうがさむいでしょ?」

三角巾で腕を吊っている夏生は、袖を通せないから、コートをきちんとしめられない。
マフラーがない私より、夏生のほうが寒いに決まってるのに。

あわててはずそうとした時にはもう夏生は走り始めていた。

あきらめて、マフラーに鼻をうずめると私は小走りで夏生を追いかけた。

マフラーからはホワイトムスクの香りがする。
夏生の香りがする。

「間に合ったぁ」

メイズに寄る余裕はさすがになかったけど、エレベーターホールについて時計を見ると、いつも通りの時間でほっとした。
膝に手を乗せて、ぜぇぜぇと肩で息をする私とは違い、夏生はかなり余裕がある。

「しずく、よく頑張ったな」

「膝ががくがくする……」

「それは運動不足にもほどがあるだろ」

エレベーターを待つ間に、息を整えた私はマフラーを外して、背伸びをしながら、さっき夏生がしてくれたみたいに夏生の首にマフラーをぐるぐると巻いた。

「ありがとう」

夏生はマフラーに鼻までうずめて、「帰りは大丈夫か?」とくぐもった声でたずねる。

「職場にブランケット置いてるから、それを巻いて帰るね」

私がそう言うと、夏生は安心したようにうなづいて、到着したエレベーターに乗り込んだ。

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