うそつきハムスターの恋人
メイズでカフェラテを受け取ると、スタッフの女の子が「ありがとうございました」と頬を赤らめてあいさつをしてくれた。

昨日から入った新人さんだ。
一生懸命さが伝わってきて、いいなと思う。

温かいカフェラテの入ったテイクアウトカップを両手で包み込むように持ってメイズを出る。
会社の入口で、思わずそのカップを落としそうになった。

「あ……」

エレベーターから降りてきたのは夏生だった。
隣にはこの前一緒にいた、あのきれいな女の人が寄り添うように立っている。

「しずく……まだ、仕事?」

夏生が私に気づいてゆっくり歩いてくる。
女の人は何も言わずに夏生の後を着いてきた。

「……うん、残業」

ちらりと夏生の斜め後ろを見ると、女の人と目があった。
近くで見ると本当にきれいな人だった。

今日もグレーのカットソーにストライプのスリムパンツスーツを着こなしている。

「……ああ、この方がしずくさん?」

そう言って、その女の人はにこっと微笑んだ。
とてもきれいだけど、私はその笑顔を見て「こわい」と思った。

「えっと……じゃあ私仕事に戻る、ね」

まるで逃げるみたいに私はそう言って、夏生の顔を見ずに、エレベーターに向かうと、乗り場ボタンを連打する。
こんな時に限って、三台もあるエレベーターはなかなか来ない。

「夏生くん、行きましょう」

女の人がそう言うのが聞こえた。

やっときたエレベーターに振り返りもせずに飛び乗る。
閉ボタンを連打していると、閉まりかけた扉の隙間から、体を滑り込ませて入ってきたのは加地くんだった。

「いてっ」

扉に派手に体をぶつけて、加地くんは苦笑した。

エレベーターは静かに上昇を始める。

「……加地くん、大丈夫?」

加地くんはぶつけたところをさすりながら、平気平気、と笑った。

「……加地くん、帰ったと思ってた」

「お腹空いたから、コンビニ行ってた」

ほら、と加地くんはコンビニの袋を私に見せる。

いつも通りの加地くんの様子にほっとした。
さっきのは見られてなかったみたいだ。

あのタイミングで加地くんがコンビニから戻ってきたことに感謝した。
ひとりだったら、私はきっとエレベーターの中で泣いていたから。

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