うそつきハムスターの恋人
このお店の売りだという、ビールマイスターが注いでくれたビールは、泡がきめ細かくてとてもおいしい。

「仕事、大丈夫だった? 急にごめんね」

改めて宮下さんが謝ってくれるので、私はいえいえと首を振った。

「ゆっくり話したかったんだよね。しずくちゃんと」

宮下さんは話しながら、夏生の顔をちらっと見る。

「コンパばっかり行ってたモテ男に、やっとできた彼女だしね」

彼女か……。
嬉しいような、切ないような複雑な気持ちになった。
どう返していいかわからず「まぁ、はい……」とつぶやく。

「別にモテてねぇよ」

夏生はぶっきらぼうに言うと、ビールをごくごくと飲んだ。

「でもほんと、水嶋、しずくちゃんのこと、大好きだよね」

「お前っ、なに言ってんの!?」

あわてた様子で夏生がとめようとするけれど、宮下さんはにこにこしながら続けた。

「今日だって、俺がしずくちゃん呼ぼうって言ったら、すぐ電話かけるし」

「お前が! お前が言ったんだろ? かけろって」

「まさか、本当に呼んでくれるとは思わなかったよ、俺は」

宮下さんは「でもそのおかげでこうしてしずくちゃんと話せてうれしいっす」と急にまじめな顔で言う。

「あれでしょ、どうせお前、井谷さんといるところ見られたから、ちょっと心配だったんでしょ。しずくちゃんが怒ってるんじゃないかって」

「井谷さん?」

聞き返しながら、さっきのきれいな女の人のことかな、と思い当たる。

「俺らのふたつ上の先輩。さっき会ったでしょ?」

私がうなずくと、宮下さんはわはは、と声に出して笑う。

「気にしてたよ、こいつ。なんか、誤解されたかも、とか言って」

「気にしてましたか……」

ちらっと夏生を見ると、夏生は「してない」と言ってビールをまた飲んだ。

夏生の耳がほんのり赤いのはビールのせいだろうか。
私の頬が熱いのも、ビールのせいかな。

< 63 / 110 >

この作品をシェア

pagetop