うそつきハムスターの恋人
頂上からの景色も絶景だった。
赤色と黄色と茶色と緑色の山々。
朱色の柵にもたれて、私は歓声をあげる。

すぐそばに、澄んだ水が流れる小川があって、時折葉っぱが流されていく。

「まずは参拝しようか」

しばらく景色を眺めたあと、私と夏生はふたり並んで拝殿の鈴をがらがらとならし、手を合わせた。

「願い事って、してもいいんだっけ?」

手を合わせたまま、夏生がたずねる。

「いいんじゃない?」

駄目だった気もする。
だけど、私は目を閉じる。

そして、祈った。

目を開けると、夏生はもう私を見ていて「しずく、あれもこれも頼みすぎなんじゃない?」と笑う。

「あんなに一心不乱にお願い事してる人、初めて見た」

夏生につられて、私も笑う。
だって、本当に叶って欲しいんだもの。

「まだ上があるみたい」

夏生の言葉に振り返ると、森林の中にまだ道が続いている。
さっきよりもずっと狭く、下りてきた人とすれ違う時には譲り合わないといけないほどの道だ。
奥の方は鬱蒼としていて、登った先にはところどころに神を祀る摂社があるようだ。

「行ってみよう」

私は夏生の手を取ると、下りてきた人が途切れた隙に登り始める。

「おんぶはできないよ」

私に手を引かれて、夏生が笑った。

朝露で湿った落ち葉の匂い。
頭上を飛ぶ鳥の高い声。
小川の流れる音。

「神社ってさぁ」

枕木階段を一歩ずつゆっくり登りながら、夏生が思いついたように言う。

「たくさん人がいるのに、なんか静かだな」

「私も、今、そう、思ってた」

息をはずませて、上を見上げると、朱色の鳥居が見える。

「お稲荷さんだな」

稲荷神社の前には赤い前掛けをした狐像が左右に二体、置いてあった。
私たちは、そこでも並んで手を合わせる。

「……しずく、さっきから何をそんなに熱心にお願いしてんの?」

夏生はおかしそうに笑いながら、私の手を取り、稲荷神社の周りをぶらぶら歩く。

「ないしょ」

小さな声で私が言うと、夏生はふぅんと言って、紅葉を見上げた。

『ギブスが取れても、夏生と一緒にいられますように』

私の願いはそれだけだ。

神社は、願い事をする場所ではない、となにかで読んだ気もする。
だけどここに神様がいるなら。

どうか私の願いを叶えてください。


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