うそつきハムスターの恋人
それから、ギブスが外れる金曜日まで、私と夏生はいつもと変わらない時間を過ごした。

内心は、落ち着かなかった。

金曜日、ギブスが外れたら私たちの関係はどうなっているのだろう、と何度も考えた。

だけど、少なくとも私はタイムリミットが近づいているとは思わない。

" ギブス "
私は最初、それに自分が縛られていると思っていた。
夏生と暮らしているのも、恋人のふりをするのも、全てギブスがあったからだった。
だから、ギブスがなくなったら、きっとせいせいし、嬉々として自分の部屋に帰るものだと思っていた。

だけど、いつからだろう。
ギブスなんて必要なくなっていた。
夏生と一緒に食べるお鍋や、手を繋いで歩く夜道や、寝起きのかすれた声や、夏生のなめらかな背中や、ふたりで見る深夜の映画。
そういうものがいつのまにか、私にとっては大切で失いたくないものに変わっていた。

だから、守りたいと思う。
この恋を大事にしたいと思う。

夏生の気持ちはわからない。
だけど、もしかしたら夏生もそう思ってくれてるかもしれない、と思うのは私の自惚れだろうか。

私に向けられる、穏やかなまなざしや、少し照れたような微笑みや、触れられる温かな手のひらに、もしかしたら自分はこの人に愛されているかもしれないと思うのは、私の自惚れだろうか。

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