うそつきハムスターの恋人
その日のお昼休みに、喜多さんと無農薬野菜のお店に行こうと話していたら、通りかかった加地くんが目を輝かせて「俺も行きたい!」と言うので、三人でランチに行くことにした。

「よかったね、今日は空いてて」

ワンプレートに五穀米や豆腐ハンバーグ、それにひじきのサラダなんかがたくさん載っているランチを食べながら、私が言うと、加地くんも同じものを食べながら、にっこりと笑う。

「今日、ギブス取れるんだっけ?」

喜多さんが、具だくさんのスープをスプーンでかき混ぜながらたずねた。

「はい。今日の四時からです」
喜多さんは「だから大澤、今日は三時で上がるのね」と納得したようにうなづいて、

「そういえば、ギブスってどうやって外すの?」

と、私と加地くん両方の顔を交互に見ながら、首をかしげる。

「ギブスカッターっていう、電動のこぎりみたいなやつで切るらしいです」

これは医者が言っていたことだ。
" 電動のこぎり " と聞いて、私も驚いたし、夏生は少し怖じ気づいていたっけ。


「俺、高校の時にサッカーで足の骨を折ったことあるんだけど、あれすごく怖いよ」

加地くんが顔をしかめた。

「電動のこぎりって……怖すぎる。腕とか切れないのかな」

喜多さんも顔をしかめる。

「刃は回転してるわけじゃなくて、振動してるだけですよ、とか看護士さんに言われるんですけど、それほんとかよ? って感じのすっごいでかい音がするんですよね。ガガガガガ、みたいな」

私はギブスにその大きな音の出るカッターが当てられるところを想像して、ごくりと唾を飲んだ。
喜多さんを見ると、恐らく同じことを想像しているようだ。

「なんか……骨を折るより恐怖かも」

喜多さんの言葉に私もこくこくとうなづいた。

夏生、今日大丈夫かなぁと考えていると、先に食べ終わった喜多さんが「ちょっと化粧室」と席を立った。

「やっと終わりだね」

加地くんが私を見てにっこり微笑む。

「よかったね、予定より早くて。ギブス生活って不便なだけじゃなくて、結構ストレスだしさ。一日でも早く外してくれって思ってたもん」

「でもまだリハビリがあるんだって」

加地くんは鼻にしわを寄せて「リハビリかぁ」とつぶやく。

「結構つらかった?」

「うん、まぁまぁ。でも、ギブス生活に比べたら、ましだと思うよ」

加地くんの答えを聞いて、私は少しほっとする。

「早く外れて本当によかった」

私はそう言ってにっこりと笑った。

三人で会社に戻り、エレベーターに乗り込むと、加地くんは十階を押したあと、十一階のボタンも押す。

「ちょっと用事を済ましてから、戻ります」

はいよー、と手を振る喜多さんとふたりで二課に戻りながら、あと二時間でどこまで仕事を進めることができるだろうか、と気持ちを切り替えた。


< 78 / 110 >

この作品をシェア

pagetop