うそつきハムスターの恋人
噂話
土曜日から降り始めた雨は、月曜日になってもやむことはなかった。
地下鉄の駅から会社までの道を、傘をさしてひとりで歩いていたら、夏生の傘に入れてもらってふたりで歩いたことを思い出してしまった。
「あーあ」
もう何百回目かのため息をつく。
この週末は、泣いて過ごした。
スーツケースの荷物を出していたら、夏生の香りがして泣いて。
腫れたまぶたを冷やしていたら、夏生が同じようにしてくれたことを思い出して泣いて。
シャワーを浴びようと思ったら、シャツが脱げないと困った顔をした夏生を思い出して泣いて。
ベッドに入ったら、隣に夏生がいないことに泣いて。
泣いても泣いても、夏生が背中や髪をなでてくれないことにまた泣いた。
メイズでカフェラテを注文しようと思い、列に並んでいると、いつもここですれ違っていた女性社員が「あれ?」という顔をして、振り返った。
「今日はひとりなのかしら」とでも言いたげに。
「ラズベリーのスコーンはいかがですか?」
カフェラテを注文すると、メイズのスタッフが私に笑顔で問いかけてきた。
夏生がよく私に買ってくれたから、スタッフにも覚えられているのだろう。
私は黙って首を横に振ると、カフェラテだけを受け取ってメイズの出口に向かう。
「あ」
開いた自動ドアの向こうにいたのは、夏生だった。
ちょうど、出勤してきたところだったらしく、コート姿でビジネスバッグを持っている。
首に巻かれたマフラーは、いつか私の首に巻いてくれたものだった。
夏生は私を見ると、わずかに微笑んだように見えた。
私は黙って小さく会釈をすると、目を伏せて夏生の横を通りすぎる。
『あの二人、別れたらしいよ』
これで、そんな噂が瞬く間に会社中に広がるだろう。
地下鉄の駅から会社までの道を、傘をさしてひとりで歩いていたら、夏生の傘に入れてもらってふたりで歩いたことを思い出してしまった。
「あーあ」
もう何百回目かのため息をつく。
この週末は、泣いて過ごした。
スーツケースの荷物を出していたら、夏生の香りがして泣いて。
腫れたまぶたを冷やしていたら、夏生が同じようにしてくれたことを思い出して泣いて。
シャワーを浴びようと思ったら、シャツが脱げないと困った顔をした夏生を思い出して泣いて。
ベッドに入ったら、隣に夏生がいないことに泣いて。
泣いても泣いても、夏生が背中や髪をなでてくれないことにまた泣いた。
メイズでカフェラテを注文しようと思い、列に並んでいると、いつもここですれ違っていた女性社員が「あれ?」という顔をして、振り返った。
「今日はひとりなのかしら」とでも言いたげに。
「ラズベリーのスコーンはいかがですか?」
カフェラテを注文すると、メイズのスタッフが私に笑顔で問いかけてきた。
夏生がよく私に買ってくれたから、スタッフにも覚えられているのだろう。
私は黙って首を横に振ると、カフェラテだけを受け取ってメイズの出口に向かう。
「あ」
開いた自動ドアの向こうにいたのは、夏生だった。
ちょうど、出勤してきたところだったらしく、コート姿でビジネスバッグを持っている。
首に巻かれたマフラーは、いつか私の首に巻いてくれたものだった。
夏生は私を見ると、わずかに微笑んだように見えた。
私は黙って小さく会釈をすると、目を伏せて夏生の横を通りすぎる。
『あの二人、別れたらしいよ』
これで、そんな噂が瞬く間に会社中に広がるだろう。