うそつきハムスターの恋人
「なんで……?」

まるで、自分が振られたみたいに宮下さんは悲しそうにたずねた。

「まあ、いろいろありまして」

「だって、あんなに仲よかったじゃん」

「でも、いろいろありまして」

さばさばと答える私とは反対に、宮下さんはどんどん落ち込んでいくように見える。

「なんで、しずくちゃんはそんな普通に話せるの? ダメージ受けてるの、水嶋だけじゃん」

「……ダメージ、ですか?」

そんなの、私のほうが絶対に受けてる。
今だって、一生懸命涙をこらえているのに。

「受けてないですよ。水嶋さんは」

悲しそうに首を横に振る宮下さんを見ながら、本当にこの人は夏生が大好きなんだなぁ、と思う。
私と一緒で。

「受けてるよ。もう、見てられないくらい。毎日しょんぼりしちゃってる」

これでさよならだって言ったのは自分のくせに。
しょんぼりしちゃうなんて、夏生はやっぱりずるい。

別れてまで、私の心を揺さぶろうとする。

「元気出してって、伝えてください」

ミルクティーの缶に書かれた『北海道産生クリーム使用』の文字を意味もなくみつめながら、私は言った。

「そんなん、僕はよう言いません」

宮下さんが急に変な関西弁で答えるから、私は少し笑った。

「でも、伝えてください」

宮下さんは、あーあと大きなため息をついた。

「好きだったんだけどな。しずくちゃんといるときの水嶋。ほんとに好きなんだなって伝わってきて」

ごめんなさい、と私は小さな声で謝った。

別れたことに対してなのか、嘘の恋人だったことに対してなのか、がっかりさせてしまったことに対してなのか。

一体なにに対して謝っているのか、自分でもよくわからなかったけど。

「えっと。それで、なんだっけ? 郵便物、持って来てくれたんだよね? 見せてくれる?」

宮下さんは、気持ちを切り替えるように明るい声を出し、私が差し出した封筒を見ると「あ、これ俺だわ」と言って受け取った。

「元気出してって、伝えておく」

最後に、宮下さんは、悲しそうに微笑んで約束してくれた。

「しずくちゃんが直接言ってあげた方が、元気出ると思うんだけどね」

本気とも冗談とも取れる言い方で、宮下さんは言う。

私は黙って首を横に振ってから、ぺこりとお辞儀をすると、階段に向かった。

夏生はダメージなんか受けてない。
宮下さんがそう思い込んでいるだけだ。



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