うそつきハムスターの恋人
喜多さんはたくさんお酒を飲んだ。
ビールを中ジョッキに三杯、日本酒を二合、芋焼酎のロックを三杯、麦焼酎を二杯。

その合間に何度も「水嶋に天罰がくだればいいのに」とつぶやいたり、「こいつにしときなよ」と私に加地くんを勧めてきたり「うまくいってると思ってたのになぁ」とぼやいたりした。

「ラストオーダーのお時間なんですが、注文されますか?」

店員さんが入ってきて元気な声でたずねる。
時計を見ると、もう十二時だ。

「あのねぇ、私ビール……」

「いえ、もう結構です」

喜多さんの言葉を、加地くんがふんわりとさえぎった。
喜多さんがじろりと加地くんをにらむ。
目が据わっていてちょっと怖い。

「お勘定お願いします」

はいよー、と大きな声で言いながら、店員さんは伝票を持って個室から出て行った。

「かーじー。私、先輩なんですけどぉ?」

「はいはい。わかってますよ」

加地くんは笑いながら、席を立った。

お会計を済ませて、お店の外に出ると、喜多さんが急に泣き出した。
加地くんがぎょっとしたように目を見張った。

「あー寒い。大澤が今から一人ぼっちの家に帰るかと思うと泣けてきた」

道の真ん中で立ち止まって、ぐすんと鼻をすする。

「喜多さん……私、大丈夫ですよ」

「私も、今日は帰らない。大澤とずっといるから、ね?」

「いえ……私は帰りたい、です……」

小さな声で答えると、加地くんが顔を背けて吹き出す。

「大丈夫、遠慮しないで。ほら、ここに座って朝まで話そう」

喜多さんは私の腕に自分の腕を絡ませると、道端に座り込んだ。

行きかう人たちが、くすくすと笑いながら通り過ぎていく。
私は絶望的な気持ちになる。

「あれ? 喜多さん?」

道端に座り込んで、五分ほど夏生の悪口を言っていた喜多さんが、急に静かになった。
喜多さんを挟むように反対側に座っていた加地くんが顔を覗き込むと、喜多さんは寝ていた。

「どうする? この人」

加地くんが苦笑する。

「どうしようか」

私も苦笑した。

二人で顔を見合わせて苦笑していると、喜多さんのバッグから携帯の着信音がする。
バッグを空けさせてもらって携帯を見ると「尚人(なおと)」と表示されている。

「彼氏かな」

私と加地くんは考え込んだ。
携帯はまだ鳴り続けている。

「大澤さん、出てみて。俺が出て、もしその人が彼氏だったらややこしくなるから。彼氏だったら迎えに来てもらおうよ」

私はうなづいて電話にでた。

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