夜闇に咲く
背中を斬られてこと切れている男、気絶しているのか死んでいるのかわからぬ男、手の中にある刀、それは血で赤く染まっていた、



それを見て、これ異常ないというほどの恐怖がおそった。
もしかしたら、この人も死んじゃった?


「っ!!!!!!」


次の瞬間、恐怖に駆り立てられて、刀もおれた竹刀も持たずに走り出した、
「……あ、まって……!」





駄目だ、止まったら。

止まってしまえば、もう平常心が──



足には自信があるが、恐怖で足がもつれる、何度も何度も、転びそうになりながら走る。


「助けて、助けて、助けて……ッ」



なにかに助けを求めながら無我夢中で走った
気づけば崖の上にある、一番最初にいた木の下に戻ってきていた、


「はぁっ……はぁっ…、んぅ……ッはぁ──」


息が、苦しい……


さっき待てって言われた気がしたけど、何だったかな……




……あ、


苦し紛れに鞄の中を荒らしていて、手に当たったのは、幼い頃、家に遊びに来た男の人が護身用に、とくれた小刀だった、




これを持つと、何故か安心するんだ。
やすりをかけられたクリーム色の木のぬくもりが伝わってくるようで。
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