世界の終わりに
私と男は暖炉の部屋に移動した。
中央に丸テーブルがあり椅子が二つある。
その正面に長いソファと暖炉。
部屋のすみには小さなキッチンがある。
ここはどうやら、この家のリビングだ。
そして、私たちがさっきまでいた場所、
つまり、私が生まれた場所は男の仕事場だ。
このリビングは、彼の仕事場に比べると広く片付いていた。
簡易キッチンの隣に備えつけている食器棚とタイルの壁にぶら下がる鍋やフライパンを見ると
この男の几帳面な性格が伺えた。
男が私にコーヒーを作ると言い出すとやかんに水を入れて、コンロに火をかけた。
私は丸テーブルの椅子に座ってしばらく暖炉の火を見ていると、男がドリップ仕立てのコーヒーをお揃いのマグカップに入れ、テーブルに運んで私の前に差し出した。
男は私の向かいに座った。
「私はコーヒーを飲めますか?」
ー飲めるけど、君の栄養にはならないし
味もわからない。ただ排出されるだけだ。
「では、何故コーヒーを飲むのですか?」
ー僕はコーヒーが好きだ。1人で飲んでもつまらないだろう?僕のために付き合って欲しい。君はコーヒーの入れ方を見た?
本当はコーヒーの入れ方なんて見ていなかったが、とりあえず彼の質問にはYesの返事をした。
「コーヒーは苦い飲み物だと知っています。砂糖とミルクは入れないのですか?」
ー僕はブラックでいい。君は入れてもいいよ。
「何故、人間は苦いものを飲みたがるのですか?」
ーチョコレートの甘みを引き出すには、苦いコーヒーが必要だろう?
男が白衣のポケットから銀紙に包まれた一口サイズのチョコレートを差し出した。私はそれを口に含んだが、チョコレートの甘みも、ましてやコーヒーの良さもわからなかった。