愛してるなんて言わないで
夜勤明けで眠たい玲二に、まだ目を離せない颯太を預けるのが不安だった。
まともに子供の世話をしない人だったから。
必死に頼む私に
玲二は「分かった」と言って、リビングのソファーに移動してまた寝た。
ただ寝る場所を変えるだけで子供の面倒が見れるわけがない。
あの時の颯太はキッチンに興味があって、包丁とかガスとか…
本当に危ない物ばかりに興味を抱いていた。
玲二の頭を叩いて
「起きて‼」と怒鳴りつけて、もう、行きたくない気持ちを堪えながら式場に向かった。
たったの4時間だったけれど
その間、颯太に何かあったら…と気が気じゃなかった。
披露宴が終わると、飛ぶように帰った私の目に飛び込んできたのは
ソファーで眠る玲二の姿と
ソファーの下にちょこんと座ってDVDを観てる颯太の姿だった。
あの光景を目の当たりにして
玲二には父親の資格がないことを再度思い知らされた。
その数ヶ月後に…
彼は私達を裏切った。
あの頃の私達に良い思いでなんか、何一つなかったはずだ…。
「どうしてパパ、これを買ってくれるって言ったの?」
「テレビでやってて僕が欲しいって言ったから。
幼稚園に入園したら買ってくれるって…
約束したよ。
僕、ちゃんと保育園に、行ったからパパ買ってくれたんだわ。」
「そう…なの?」
玲二はその時の約束を覚えていたのだろうか…。
これを受け取った日には何も言ってなかった。
でも
颯太の中で果たされた約束なら…
きっと今日の5歳の誕生日は颯太にとって忘れられない誕生日になったに違いない。
「良かったね颯太。
でもね…
パパからのプレゼントはこれでもう終わり。
最後なの。
分かる?」
すごく残酷な質問だったと思う。
特別な日にするような話しでもなかったけれど
今日の誕生日に
5歳を迎えたら
颯太にもパパのことを少しずつ理解していってもらおうと思っていた…。
「わかるよ。だって颯太、パパにさよならしたもん。」
覚えていた事を自慢するように
無垢な表情を浮かべる。
今の颯太には永遠の別れなんて分からないかもしれない。
でも
一つだけ
ちゃんと伝えたい。
「颯太のパパはとてもステキな人だから…
嫌いにならないであげてね?」
「うん‼僕、パパ優しいから大好きだよっ」
その言葉に傷つくことのできる立場じゃない。
颯太が純粋な気持ちで私を傷つけるよりももっと酷い形で
私は颯太をこれからも傷つけていくに違いない。
パパの不在を
その理由を…
颯太の成長にあわせて1つずつ…
それでも
その時に
「パパはあなたを愛していたよ」と伝えられる母親になっていたい…。