愛してるなんて言わないで
「そういえば颯太…あのゲーム機を見てさ、パパが約束を憶えてくれてたって喜んでたけど…?
玲二はそんな約束をしたのを憶えてた…?」
私の言葉に、玲二が一瞬、驚いた顔をして
困ったように笑った。
「あんな約束を颯太が憶えてたのか…?
まだ3歳くらいだったのに凄い記憶力だな…」
「そんなどこにでもありそうな約束が印象に残るほど、普段まともに接してなかったからじゃないの…?
それより…
産まれたの?」
私の問いに、玲二が小さく頷く。
「ああ、産まれたよ。
嫁は産後3ヶ月は実家に帰省で決まってるからまともにまだ会えてないけどな…。」
玲二の口から出た
「嫁」という言葉に胸がチクリと痛む。
そう…
変な縁で、今は2人で並んで座っているけれど…
玲二の隣に、もう私の居場所はない。
「あのさ…玲二…
養育費の件なんだけど…」
口を開きかけた時
「結花さんっ!」と私を呼ぶ声が聞こえて、声のした方を振り返ると
血相を変えて駆け寄ってくる翔太さんの姿が視界に飛び込んで来た。
えっ⁈
…なぜ翔太さんがっ⁈
「依子から電話がきて…
そのっ…
颯太は大丈夫なの?」
「えっ…ええ、今…お医者様に診て貰ってます。」
思いがけない翔太さんとの再会なのに…
隣に
元旦那。という存在がいるせいで
きまずすぎて、視線が泳ぐ。
できれば、誰も何も気づかないで欲しいのにっ…
「結花のお友達ですか…?」と
普通に話しかけてしまった玲二。
これは…予想外の展開だけど。
でも
気まずくなる必要なんかは…
無いはずなんだ。