あいにいくよ
「…騙された俺はバカだ。ただまにまを守りたかっただけだった…でも、もうやめる。別れよう。こんなにたくさんの人に迷惑をかけておいて、平気でいられるなんて、俺の知ってるまにまじゃない」
「何言ってるの?離れるはずないでしょう?」
何かが、切れたようだった。
詰め寄るまにまを、まにまの父親が羽交い絞めにして止める。
「私はね、ちありがいて初めて生きられるの。逃げ出したのは楽しかったね。全速力で走ったのは小学生以来だよ。二人で見上げた空は暗くて少し不安だったね。でも大丈夫。ちありと私ならうまくやっていけるよ。だいすきだよ。ほら、いこう」
後ずさるちあり、ちありの父親が守るように前に出た。
「まにまさん。君は病気だ」
「はい。そうなんです。恋患いです。愛しい人への想いに侵されて頭が割れそうなんです。だから、そこをどいてください」
何一つ見破れず、何一つわからず、ちありはただ、滑稽であり続けた。
まにまの思う通り、操られる人形の様に。
たてられた筋道の通り逃避行をし、その先に向かおうとしていた。
彼女にとって補導されたのは予想外だったらしく、互いの両親を部外者呼ばわりし、追い払おうとする。
そんな彼女の何もかもが恐ろしく、ちありは目を閉じた。
星、月、神様、なんでもいい。
全部、なかったことにしたいんだ…お願いしますお願いします。
また、ちありは見えない何かに祈った。
形のない、何かに静かに祈った。
耳から入る音は聞こえないフリをして祈り続けた。