あいにいくよ
安心できる言葉をかけたくて開けた口を、ちありは又閉じた。
何一つとして約束できない今の状況で、彼女を元気にする言葉が思いつかなかった。
大丈夫だよと振り返って言おうとして止めたのは、腫れた右目がじくじくと痛み、その晴れを見てちありが何かを決心してしまわないようにだった。
後悔を口に出しては何かが壊れてしまいそうで、立ち上がろうにも体力は尽き、途方にくれるとはこのことかとちありは生まれて初めて絶望した。
言葉がなくとも、お互いの気持ちは同じだった。
助けたいなどと今にしてみれば幼稚な考えで、子供である自分が恥ずかしくなった。
交際を始めて一年と少し、まにまは家に居場所がなかった。
付き合って数か月経った頃、まにまから聞いた話はサラリーマン家庭で何不自由なく育ったちありの想像を遥かに超えたものだった。
父親の暴力も、母親の育児放棄も、人ごとの様に聞いていた。
まさか、大事になるだなんて夢にも思わなかったことが、今では浅はかで愚かであると自分を罵った。
少し考えればわかったことだった、逃げ出したいと彼女はこの頃よく口にしていたから。
何かあってからでは遅いとなぜ気づかなかったのか。
後悔ばかりで、それでもそんな後悔に意味はなく。
そして、その日は訪れた。